在庫適正化を目指す電産の調達改革
「もう同じ失敗は繰り返さない」 ―サプライチェーン最適化に挑む、調達現場のリアル―
コロナ禍で経験した部品供給の混乱は、調達に携わる私たちにとって忘れがたい出来事でした。 部品が入らない、納期が読めない、在庫は積み上がる。 あのとき露呈したのは、外部環境の変化だけでなく、私たち自身の仕組みや考え方の脆さでした。
そこから数年。 電産の調達部門では、「同じ失敗を繰り返さない」ことを合言葉に、サプライチェーン最適化へ本気で取り組んでいます。
- 在庫は「安心」ではなく「リスク」になることがある
- 部門の壁を越え「全体最適」へ ―POMプロジェクトの始動―
- すでにある在庫とも、真正面から向き合う ―QMS活動―
- 「仕入先を増やす」決断は、過去の反省から生まれた
- 在庫を持たずに、納期を守るという挑戦 ―フォーキャスト運用―
- 部品だけでなく、「人のリスク」にも目を向ける
- 情報と対話が、サプライチェーンを強くする
在庫は「安心」ではなく「リスク」になることがある
52期期首、部品在庫については明確な削減目標を掲げてスタートしました。 しかし期中時点でも、依然として想定を上回る水準で推移しており、在庫適正化は簡単な課題ではないことを改めて突きつけられています。
かつて私たちは、「将来使うかもしれない」という不安から、部品の生産中止を理由に大量の買い込みを行ってきました。 その結果、在庫金額の約半分が“使われない可能性のある部品”で占められるという状況に陥っていたのです。
部門の壁を越え「全体最適」へ ―POMプロジェクトの始動―
この構造を変えるために立ち上げたのが、POMプロジェクト(Parts Operation Management/部品稼働マネジメント)です。 部品在庫を「個別最適」ではなく「全体最適」の視点で捉え直し、将来的なデッドストックを生まない仕組みをつくることを目的とした社内改善活動です。
調達・生産・品質など複数部門が連携し、在庫の持ち方や管理ルール、判断プロセスを見直すことで、「使われない在庫をつくらない」「必要なときに、必要な分だけ使える」状態の実現を目指しています。 その具体策のひとつとして、営業部門の協力を得ながらラストバイの考え方を刷新し、「お客様の正式な注文書を前提にした買い込み」へと大きく舵を切りました。 “念のため持つ在庫”から、“根拠ある在庫”へ。 この意識転換こそが、在庫適正化に向けた最初の一歩でした。

すでにある在庫とも、真正面から向き合う ―QMS活動―
未来のデッドストックを防ぐ一方で、すでに抱えてしまった在庫から目を背けるわけにはいきません。 そこで進めているのが QMS活動(Quality Management System/品質マネジメントシステム) です。
営業部門と連携し、今後の所要を一つひとつ確認。 使用見込みのない在庫については、コアスタッフへの出品や商社とのフォーキャスト運用など、現実的な手段を組み合わせながら削減を進めています。
在庫は数字ですが、その裏には過去の判断と責任があります。 だからこそ、机上の理論ではなく、現場で実行できる形に落とし込むことを重視しています。
「仕入先を増やす」決断は、過去の反省から生まれた
コロナ禍で最も痛感したのは、「1社依存の危うさ」でした。 以前は、効率を優先して仕入先を集約していましたが、供給が止まった瞬間、その効率は一転して大きなリスクになります。
現在は方針を180度転換し、1メーカー複数仕入先を基本としています。 また、市場流通業者の開拓にも力を入れ、緊急時に選択肢を持てる状態を意識的につくっています。 “普段は使わないかもしれないが、いざという時に助けてくれる存在”。 その準備こそが、リスク対策だと考えています。

在庫を持たずに、納期を守るという挑戦 ―フォーキャスト運用―
「在庫は増やせない。でも納期は守りたい」この矛盾に向き合う中で始めたのが、フォーキャスト運用です。長納期部品を対象に、毎月商社へフォーキャストを提示し、商社側で在庫を持ってもらう仕組みです。 まだ下期にスタートしたばかりの暫定運用ですが、在庫圧縮と供給安定の両立に向けた一つの挑戦です。
部品だけでなく、「人のリスク」にも目を向ける
もう一つ、コロナ禍で浮き彫りになったのが 属人化の問題 でした。 倉庫の仕分け業務が製品単位の担当制だったため、担当者が不在になると作業が止まってしまう。 「本人でないと分からない」という状態は、立派なリスクです。
現在は仕分けチームをグループ制に再編し、リーダーに判断を委ねる体制へ変更しました。 手順書の整備やさらなる平準化は道半ばですが、確実に“止まらない仕組み”へ近づいています。
情報と対話が、サプライチェーンを強くする
調達は、情報戦です。 商社との定期的な打ち合わせを通じ、部品の長期化や市場動向について常に情報をアップデートしています。社内では、毎週の全体朝礼・バイヤー朝礼、隔週のPOM・QMSミーティングを実施しています。 バイヤー朝礼では、各自が今週のタスクや困りごとを共有し、チーム全体で支え合う文化を大切にしています。
11月からは、VMV活動の一環として月曜朝の全体朝礼でラジオ体操も始めました。 効果はまだ分かりませんが、「顔を合わせ、同じ動きをする」ことが、チームの一体感につながると信じています。

サプライチェーン最適化に、完成形はありません。 環境が変われば、最適解も変わります。
だからこそ私たちは、過去の失敗から学び、仕組みと人の両面を少しずつアップデートし続けています。 地味で、時間のかかる取り組みですが、その積み重ねこそが、企業の足腰を強くすると信じています。